過去のソウルに自分たちのルーツを見出すようになった90年代。70’sライクかつジャジーなR&Bを「ニュー・クラシック・ソウル」、「オーガニック・ソウル」と呼んだ。90’s後半に入り、それらの音楽は「ヒップ・ホップシーン」とともに拡大を続け、いつしか「ネオ・ソウル」と言う新たなネーミングを獲得しながら、音楽産業の中で確固たる地位を築くまでになった。
そこには70年代の「ニュー・ソウル」と言う、新しい時代の扉を鮮やかに解き放った「ニュー・ソウルの四天王」と呼ばれたマーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、カーティス・メイフィールド、スティービー・ワンダーらの存在無くして、90年代の「ニュー・クラシック・ソウル」、「オーガニック・ソウル」、そして「ネオ・ソウル」を含む現在の「フリー・ソウル・ブーム」を語る事は出来ない ‼
つまり90年代、ヒップ・ホップビートを取り込んだR&B、あえて言えば、過去の名曲のトラックをループしてそれに歌を付け直した曲が流行していたなかで、改めてミュージシャンシップに注目するムーブメントに注目が集まったのが「ネオ・ソウル」である。
そして、その文脈で登場したアーティストの1人が『Eric Benét(エリック・ベネイ)』である ‼
彼の甘いメロディと歌声、その作曲能力で「Baby face(ベイビー・フェイス)」などともイメージがかぶるところだが、この人の場合さらにスタイル良し、ルックス良しということでMTVなどでも大人気となった。
作曲もこなす多くのアーティストの例にもれず、早くからその才能が注目されていた彼は、妹とともに『Benet(ベネイ)』というグループで92年にデビュー。この作品をリリースするまでにもかなりの苦労を経験したが、アルバム“Benet”もヒットには至らず、グループは解散。エリックはそれでもあきらめず、96年ソロ・デビュー作“True to Myself”をリリース。このアルバムから“Let’s Stay Together”や“Spiritual Thang”が(特に日本では)ポップフィールドを巻き込んだ大きなヒットとなり、サンプリングのみに頼らないスタイリッシュなシンガーとしての人気を確立した。
ソロ・デビュー作“True to Myself”も、「ニュー・クラシック・ソウル」の文脈で注目され、そこでの弾力にとんだ歌唱が、スティービー・ワンダーさながらのヴォーカルとして語り草となり、私生活での浮き沈みを経験しながら、ソウルやAOR系のサウンド・スタイル(「AOR/Adult Oriented Rock」と言う言葉は、日本でのみ使用され海外では通用しない。米国などでは「MOR/Middle of the road」とも言われたりする…)を前に出しているのもエリックらしい特徴で、どことなくプリンスを想起させるマイルドなアップ(なお、エリックの奥様はプリンスの元妻でもある…)をベースにしたR&Bを歌い続けてきた。
彼は、現在も常に「ソウル黄金時代のフィーリング(70’sニュー・ソウル)」、「生演奏へのこだわり(90’sオーガニック・ソウル/ネオ・ソウル)」、そして「クールな中にも官能的で浮遊感覚あふれる縦横無尽なヴォーカル(70’sフィリー・ソウル感)」満開な“リアル・ソウルの伝道者”として、今は亡き偉大なシンガー達、そしてR&B/SOUL界全体が酔わされ惑わされる楽曲を紡ぎ続けて行く“Legend”に位置付けられるアーティストの1人に間違いない・・・。
因みに私にとって、尊敬する偉大なシンガーと言えば、今は亡き“ミスターソウル”「サム・クック」、“ソウルの神”「マーヴィン・ゲイ」、“ソウルの申子”「ダニー・ハサウェイ」、“ソウルの父”「ルーサー・ヴァンドロス」である。
また、尊敬する同世代(同い年)のシンガーとなれば、現役アーティストの「R.ケリー」、「ブライアン・マックナイト」、「ラファエル・サディーク」、そして「エリック・ベネイ」が挙げられる。
そして、最も恐るべき才能を見せられたのが、“黒人最後の天才”「D’Angelo(ディアンジェロ)」である ‼
本日は、『Eric Benét(エリック・ベネイ)』の名を世界に知らしめた、1999年リリースの2ndアルバム『A Day In The Life』に収録され大ヒットし、ソウル・トレイン・ミュージック・アウォード、ベスト・R&B/ソウル・アルバム部門を受賞したうえ、2000年のグラミー賞にノミネートされるなど、タミアをフィーチュアしたバラード曲の2ndシングル“Spend My Life With You”。そして、2008年9月に発売された4thアルバム『Love & Life(邦題:エリック・ベネイ「愛すること、生きること」)』からシングルカットされ、R&B/ヒップホップソングチャートで4週続けて全米トップ1になり、2009年にはグラミー賞R&B最優秀男性歌手賞、アルバム賞の2部門にノミネートされた曲、“You’re the Only One”をお届けしたい ❣
by JELLYE ISHIDA.
〖 Eric Benét(エリック・ベネイ)〗1966年10月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキー生まれで、本名はエリック・ベネイ・ジョーダン。“リアル・ソウルの伝道者”と名高いキャリア27年(1992年~2019年現在)を誇るソウル/R&B シンガー。
音楽一家の5人兄弟の末っ子として育ち、3歳の時スティーヴイー・ワンダーに感銘を受けR&B/ソウルに開眼。以降、スライ・ストーン、ダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイ、アイズレー・ブラザーズ、プリンス、チャカ・カーン、ビートルズ、ジャーニーと幅広い音楽を愛聴。
高校卒業後、父親が愛聴していたクラシック音楽に影響を受け、姉のリサと従兄弟のジョージ・ナッシュ・Jrと共に「Benet」というグループを結成。1992年にEMIからデビューを飾りセルフ・タイトルは7万枚を売り上げたが成功を見ずにグループは解散。私生活では恋人タミーとの間に娘、インディアを授かるものの、タミーは1993年4月24日に交通事故で死去した。
1994年にワーナー・ブラザース・レコードとソロ契約を結び、1996年にデビュー・アルバム『True To Myself』でソロ・デビューし、高い評価を得る。温もりのあるヴォーカルと生音を重視したサウンド、そしてスピリチュアルな歌詞が大絶賛を浴び、ニュー・クラシック・ソウル/ネオ・ソウルのムーヴメントにも乗ってディアンジェロ、マックスウェルと共に人気を博す。
1999年にはフェイス・エヴァンス、タミア、ワイクリフ等、豪華ゲストを迎えた2ndアルバム『A Day In The Life』を発表し、TOTOのカヴァーでフェイス・エヴァンスをフィーチュアした1stシングル“Georgy Porgy (feat. Faith Evans)”も発表。タミアをフィーチュアしたバラード曲の2ndシングル“Spend My Life With You”が大ヒット。これらを収録した2ndアルバムは、ソウル・トレイン・ミュージック・アウォード、ベスト・R&B/ソウル・アルバム部門を受賞し、2000年のグラミー賞にノミネートされた。また、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの30周年記念CDのレコーディングにも参加した。
この当時には女優のハル・ベリーと婚約、2001年1月に結婚する。この時期にFor Your Loveで俳優としてもデビューし、2001年に『グリッター きらめきの向こうに』で映画にも出演。その後ハル・ベリーとは2003年に離婚。またベネイは、フォープレイやジェフ・ローバー等、フュージョン系ミュージシャンとも共演している。
2001年にはアルバム『Better&Better』を完成させリリースすると報じられたが、この作品は日の目を見ず、ワーナーブラザーズの意向により発売されることはなかった。
『 Better And Better(Unreleased/2001)』[01] I Can’t Stop Thinking About You
[02] R&B
[03] I Wanna Be Loved
[04] Pretty Baby
[05] Better & Better
[06] Spanish Fly
[07] I Might
[08] Trippin’
[09] Closer
[10] Sing To Me
[11] I’m Coming Over
[12] We Could Have Been
[13] Can I Just Call You
[14] Love Don’t Love Me (Bonus Track)
[15] Touching Again (Bonus Track)
[16] Who Shall See The Day (Bonus Track)
[17] We Gon’ Ride (Bonus Track)この中、[03]“I Wanna Be Loved”と[04]“Pretty Baby”は、2005年発売の3rdアルバム『Hurricane』に、そして[06]“Spanish Fly”と[10]“Sing To Me”は、2008年9/9に発売された4thアルバム『Love & Life(邦題:エリック・ベネイ「愛すること、生きること」)』に入れられている。
また、2010年リリースの5thアルバム『Lost In Time』発売後、2014年2月に本作の“Deluxeヴァージョン”が新たに発売された中のボーナストラック曲に、[05]“Better & Better”、[07]“I Might”、[08]“Trippin’”が収録されている。
2002年にエリック・ベネイが出演したマライア・キャリー主演の映画 「グリッター」の中で歌われている曲、[12] “ We Could Have Been” も、[14]“Love Don’t Love Me” は、シングルカットされている。映画の中で、楽屋裏で出番を待つマライアが情感たっぷりにこの曲を演奏するエリックにみとれる出会いのシーンがある。
[01]“I Can’t Stop Thinking About You”も軽快なテンポの90年代のR&Bっぽい曲だし、[02]“R&B”は、いかにも昔ながらのソウル。
エリックらしさもありながら、充分に多くの人に受け入れられるCDに仕上がっている。噂ではR&Bの要素が足りず没になったとも言われているが、決してそのようには思えない楽曲ばかりである・・・。
その後2005年にリプリーズから3rdアルバム『Hurricane』を発売し6年ぶりの新作として話題に。またハリケーンカトリーナ被災者支援のためのチャリティーシングル“Heart Of America”では、マイケル・マクドナルド、ウィノア・ジャド、テリー・デクスターと共演。その年には6年振りの来日を果たす。2007年には東京ジャズフェスティバル出演のために再来日。
2008年9月に発売された4thアルバム『Love & Life(邦題:エリック・ベネイ「愛すること、生きること」)』からシングルカットされた曲、“You’re the Only One”は、R&B/ヒップホップソングチャートで4週続けて全米トップ1になり、2009年には、グラミー賞R&B最優秀男性歌手賞、アルバム賞の2部門にノミネート。2009年度は2月、12月と2度来日した。
2010年に5thアルバム『Lost In Time』をリリース、2012年には自身のレーベル=ジョーダン・ハウスから6thアルバム『The One』をリリース。
2014年に7thアルバム『The Other One: Revisited By The Afropeans』は、2012年にリリースし好評を博した『The One』を「エレクトロ・ソウル」なアプローチでリメイクした新作で、UK盤『The Other One』とUS盤『The Other One』としてリリースされている。本作はこれまでと異なり、2014年にドイツで設立されたばかりのレーベル、Peppermint Soulと、アフロピアンズ(The Afropeans)というプロデューサー集団と制作されたもので、今までとは違うアプローチで『The One』をリメイクするという趣旨のリミックス・アルバム。ドラムンベースなどの影響を受けた「エレクトロ・ソウル」な内容になっている。
その後に8thアルバム『From E to U : Volume1』も2014年にリリースされ、以後、最新の9thアルバム『Eric Benet』を2016年にリリース。
全アルバムを通してクオリティの高い作品をコンスタントに発表し、エリック・ベネイは現在、“リアル・ソウルの伝道者”としてファンを魅了し続けている・・・。
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