【 はじめに 】
天賦の美貌と知性、音楽の才能、そして類稀なる歌声を兼ね備えた唯一無二のカリスマ『Sade Adu (シャーデー・アデュ)』を中心とする伝説的なイギリスのグループ『SADE (シャーデー)』。
シャーデーがデビューしたのは1984年。ヴォーカルのシャーデー・アデュ以外のメンバーたちが結成していた「プライド」というラテン・ファンクのバンドに、バッキング・ボーカルとしてシャーデー・アデュが参加した1982年から今年で音楽活動40年目を迎える・・・。
素晴らしいキャリアの中で、シャーデーの6枚のアルバムは世界中で6,000万枚以上を売り上げ、24回プラチナ認定され、女性アーティストとしては全英No.1セールスを誇る ‼
アフリカ難民救済を目的として1985年に行われた20世紀最大のチャリティー・コンサート『ライヴ・エイド』に出演した際には、シャーデー・アデュは75,000人ものライヴの観客、さらに170カ国14億人と推定される世界中のテレビ視聴者の前に登場した唯一のアフリカ生まれのアーティストとなった。
シャーデーはまた、世界中のミュージック・シーンのあらゆるジャンルで高い評価を得ており、ビヨンセ、ドレイク、カニエ・ウェスト、ミッシー・エリオットから、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ、デュア・リパ、FKAツイッグス、メイベル、テイラー・スウィフトら最新のアーティストにいたるまで、大きな影響を与え続けている。
著名なヒップホップ・アーティストたちはSADEの作品をサンプリングし新しいクラブ・ミュージックのクラシックを作り、時代に縛られない楽曲群は、デフトーンズ、ドナ・サマー、フランク・オーシャン、ハービー・ハンコック、ジェイソン・ムラーズ、ローリン・ヒル、リアン・ライムス、プリンス、The 1975、トーリ・エイモスら多くのアーティストにカヴァーされている・・・。
特に近年では、故プリンスがデビュー前から注目し、生前にその歌声を“ A voice that could melt snow ”「雪さえも溶かすほどの(温かい)声」と絶賛された、ブルーノートの未来を担う歌姫『Kandace Springs (キャンディス・スプリングス)』が、「今の自分をつくりあげた」と語る女性ヴォーカルの名曲をカヴァーした3作目のアルバム『The Women Who Raised Me (2020年)』の中で、最も心惹かれる曲のひとつが、シャーデーのアルバム『Love Deluxe (1992年)』に収められていた“ Pearls ”のカヴァーである ‼
彼女いわく、「テネシーのちっちゃなレコード屋でアルバムを買って、車の中で聴いていたんです。“ Pearls ”が流れた時、一瞬ですべてが止まった。どうにもできなかった。わけもなく涙が流れてきたんです。一体何、これ?って思いました。友達にも聴かせたら彼女も涙を流し始めて…。今まで聴いたどの曲よりも好きな曲のひとつです。好きすぎて、私のお葬式で流してほしいほどです。」と語っている。
キャンディスがこの曲を初めてライヴで演奏したのは、数年前のオランダであったが、その時には「メトロポール・オーケストラをバックに歌ったんです。あまりのパワーにステージで泣きそうでした。3作目のニュー・アルバムではどうしてもシャーデーの“ Pearls ”をレコーディングしたかった。」とコメントしている。
また、シャーデーに絶大なるリスペクトを表明するアーティストの一人であり、グラミー15冠、全世界トータルセールス 6,500万枚を誇り、これまでリリースしたアルバム7作中 (『アンプラグド』含む) 5枚が全米1位を獲得している孤高の歌姫『Alicia Keys (アリシア・キーズ)』の通算8枚目となる最新アルバム『Keys (2021年)』に収録されているリードシングルの“ Best of Me ”では、シャーデーへのオマージュを示す楽曲として、名盤『Love Deluxe (1992年)』の傑作“ No Ordinary Love ”と“ Cherish The Day ”の2曲を印象的な方法でミックス編集した楽曲に仕立てている ‼
以前より彼女は、敬愛する女性アーティストであるシャーデー・アデュに対し、2010年2月15日付のソニーミュージックが運営するアリシア・キーズ公式サイトにて、「シャーデーは最もエレガントで、自然で、官能的でインパクトのある声の持ち主の一人です。この世で彼女のようにどんな人生を生きるどんなソウルにも感銘を与えることができる人はいません。彼女こそが我々みんなをつなぐ、音楽のエッセンスです。彼女は彼女自身のルールを築き、他の皆はそれに従うようです。彼女は燦然と輝くかけがえの無い才能の持ち主で、彼女が私の人生に与えてくれた感動とインスピレーションに心より感謝します。」とコメントを寄せている・・・。
先のアルバム『Keys (2021年)』では、1つの楽曲に対し「Originals ver.」と「Unlocked ver.」の2種類の音源が対をなして収録され、同作についてアリシア自身は「Originals ver. は“ 帰郷 ”だと考えています。自分がどこから来たのかを覚えていなければ、どこへ行くのかを真に理解することはできない。」と語っている。
一方で「Unlocked ver. では自分のルーツを理解した上で“ 磁気治療をうけたような、より充実した体験 ”をコンセプトに制作を進めたの。」と語っており、今作はアリシアにとってもアーティストとしてだけではなく、1人の女性としてのルーツや根源と向かい合いながら制作した“ 実験的 ”な作品に仕上がっていることが伺える。
偶然にせよ、はたまた必然であれ、彼女たち両名がセレクトしたシャーデーの楽曲は、いずれも『Love Deluxe (1992年)』に収録されている名曲である ‼
● シャーデーの世界観と美学の頂点を極めた『Love Deluxe』
衝撃的なヌード・ジャケットで話題を呼んだ彼らの4枚目のアルバム『Love Deluxe』は、これまでシルキーなジャズとソウルをミックスしたサウンドが売りであったものから、そのカテゴリーを飛び出し、「シャーデーの世界観と美学の頂点を極めた作品」といえる透明感溢れる上質なポップスを作り上げている。
シャーデー・アデュも洗練さを増し、この作品では神々しさと同時に近未来的なメタリックさも漂わせ、ヒットした“Kiss of Life”では、「マーヴィン・ゲイの“Let’s Get It On”をより上品に磨き上げてポップスにした」と語っており、当時のポップス・ファンとソウル・ファンの両方に絶賛された。
また、リズムの引用も複雑になり、一曲の中にジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、アンビエント、デジタルなビートが絶妙なミックスで配合されているが、どの要素も極端には前面に出ていないので、古さ(時代性)をあまり感じさせない恍惚感もある。
本作のリリース後、バンドは7年間の活動休止期間を過ごし、その間、シャーデー・アデュはうつ病と依存症の噂でメディアの監視下に置かれ、後に最初の子供を出産した・・・。
これまでリリースした6枚のアルバムの中でも、一曲一曲が洗練され最高傑作として名高い4thアルバム『Love Deluxe (全9曲)』は、一度耳にしたら忘れられない名盤中の名盤であり、30年もの時を経た今日においても決して色褪せることはない。
これらの現象を鑑みれば、時代にとらわれず、女性ヴォーカルの歴史を築いてきた過去のアーティストたちによって歌われた楽曲を、彼女たちなりのアレンジで仕上げた作品の中において、シャーデーの楽曲もまた、現代を代表するシンガーとしては、次世代のアーティストたちに多大なインスピレーションを与え続けている類稀な存在であることを物語っている ‼
【 SADEが新しいアルバムを12年ぶりに制作中 ⁉ その真相を追う 】
シャーデー が、再オープンした南フランス・コレンのレコーディングスタジオ『Miraval Studios (ミラヴァル・スタジオ)』で新曲をレコーディング中との噂が囁かれている・・・。
10月10日付の米ビルボードのカバーインタビューで、フランス南東部のプロヴァンス地方にある、ぶどう園とワイン醸造所のシャトー・ミラヴァルの敷地内にある歴史的なレコーディングスタジオ『Miraval Studios (ミラヴァル・スタジオ)』の再開と改装について報じられた ‼
このスタジオは1977年、フランス人ピアニスト兼作曲家のジャック・ルーシェによって設立され、2000年代半ばまで「スタジオ・ミラヴァル」という名前で運営されていたが、2011年に俳優のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーがシャトー・ミラヴァルを所有して以来、使用されずに20年近く眠っていた。
現在このスタジオがある土地を所有している俳優の『Brad Pitt (ブラッド・ピット)』がフランスの作曲家で音楽プロデューサー『Damien Quintard (ダミアン・クインタード)』と組んで全面的に修復・改装され、2022年10月にミラヴァル・スタジオという名前で再オープンし復活を果たしている。
そして今回、10月10日に正式に再開されたミラヴァル・スタジオにて最初にレコーディングしたアーティストが『SADE (シャーデー)』であったと、米Billboard誌、米SPINをはじめ、FADERやRATED R&Bにより報道されたのだ ‼
ダミアン・クインタードは米ビルボード誌にて「彼女とバンドがこの場所に持っていた愛情を感じることができた」とシャーデーのレコーディングについて話している。
またSPINでは「シャーデーはミラヴァルとスタジオのレガシーにとって、とても特別な存在であり、彼女が到着したとき、そして彼女がここで再び録音する最初のアーティストになったとき、私たちは有頂天になった」と語り、シャーデーのセッションは「ファンタスティック。スタジオの素晴らしい瞬間のいくつかは、過去と未来を組み合わせたときであった」と付け加えている。
これまでもシャーデーは、1985年の『Promise』と1988年の『Stronger Than Pride』の2枚の貴重なアルバムの一部を、このミラヴァル・スタジオにおいて伝説的なレコーディング・セッションを行っているが、そもそも彼女が取材を受けること自体が相対的に非常に少なく、いつどこでレコーディングを行っているのか知られることは稀である ‼
シャーデーの最後の新曲は、2017年に映画『妻たちの落とし前 (原題:Windows)』のエンディング曲“ The Big Unknown ”を制作 (リリースは2018年)。
さらに翌年の2018年、ディズニー映画『五次元世界のぼうけん (原題:A Wrinkle in Time)』のサウンドトラック “Flower of the Universe”を提供。
この時点で、2011年のベスト盤『The Ultimate Collection』から7年ぶりのリリースとなっているものの、2010年に6枚目のアルバム『Soldier of Love』をリリースして以降、アルバムは12年もの間リリースしていない。
また、これと同時期 の2018年7月13日、音楽誌『Rated R&B』がおこなった独占インタビュー においてメンバーのマシューマンがシャーデーの新アルバムを制作中であることを明かしており、「既に収録曲のいくつかは完成しているが、特にアルバム発表の期限は設けておらず、納得できる仕上がりになれば、みんなに聴かせるよ」とコメントしていた・・・。
2018年に新アルバムの制作が報じられ話題を呼んだシャーデーだったが、2020年10月9日にリリースされたシャーデー初のコンプリート作品にして究極のアナログ盤BOX『This Far』(ディス・ファー)のプレスリリースには、今作のタイトル『This Far(ここまで/今のところ)』とは、「アルバムがまだ完全に完了していない可能性がある」ことを示唆しているとのことだった ‼
かねてより「私は言いたいことがあると感じた時にしかアルバムを作らない。単に何かを売るために音楽を発表することには興味はないし、シャーデーはブランドではないから」というシャーデー・アデュの言葉の通り、彼女自身の姿勢は商品としての音楽ではなく、これまで一貫して創作動機や意欲を重視している。
今回の「ミラヴァル・スタジオ」でのレコーディング・セッションも、現時点で実際に新曲をレコーディング中であるかどうかは確認できていないが、「この時代にシャーデーがどんな音源を発表するのか」、また「今回のスタジオ入りがその足がかりになるのか」など、オフィシャルな発表が待ち遠しいところだ ‼
by JELLYE ISHIDA.
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